2025年3月

小原由夫のアナログ歳時記 2月22日(土)

オーディオ評論家 小原由夫 による
今日の一曲と日常の記録
レコードと共に時を刻む

2月22日(土) 晴れ時々曇り
 
 物にはデザインがある。考えた人、造った人の意図、狙いがそこに反映されているわけだ。私も趣味でレザークラフトやスピーカー造りといった木工を楽しんでいるが、事前の設計やデッサンは欠かさない。世の中にはインスピレーションで造られた物ももちろんあると思うが、完成までの過程で何らかの思惑はあったはず。デザインには、造った人の心象が投影されているのだ。
 AP-01のデザインを初めて見た時、私は“ 削ぎ落とした潔さ”のようなイメージを抱いた。ミニマリズムの表れといってもよい。無駄な装飾を一切盛り込まず、必要な機能と必要でない機能を徹底的に選り分けた結果のデザインという印象を受けた。しかもこれが社内のデザイナーによるものというのだから二度ビックリ。私はてっきりベテランのインダストリアルデザイナーが手掛けたものとばかり思っていたのだ。
 
 AP-01のデザインは、建築家ル・コルビュジエのモダニズム建築の様式も彷彿させる。中央部が刳り貫かれたスケルトンデザインで、直線を軸に設計された実にシンプルな形状がそう想起させるのだ。シンメトリーにデザインされた回転機構部や、円柱の脚部、プラッターの円がそこに有機的要素を加味させ、合理性と機能美を与えている。見れば見るほど惚れ惚れするフォルムなのである。
 
 オーディオ機器だから音がよくなければならないが、音を優先するあまりデザインが蔑ろ、二の次になっている製品を私はずいぶん見てきた。それでも気に入ればいいが、少なくとも私はそんな機器を自分のオーディオシステムには持ち込みたくない。断固拒否!
 ここで話は唐突にレコードジャケットのデザインに飛ぶが、LPのジャケットも30cm角のアートに見立てられよう。CDの12cm四方のリーフレットでは、同じデザインでも印象がだいぶ違うものだ。
 
 デザインが好きなLPジャケットはたくさんあるが、米Contemporary RecordsのGerry Wigginsのこのアルバムのデザインは、初めて見た時になんて素敵なんだと思った。タイトルをひときわ大きく配置し、サブタイトルとアーティスト名をそれより小さくして配色も変えている。その横にあしらわれたイラストの足が、いかにも寛いでいる風情で、アルバムタイトルを象徴しているではないか! 実に味わいのあるアルバム・アートワークだ。
 
 音の良さでも定評のあるContemporary Recordsの作品を私は蒐集しているが、アルバムジャケットのアートワークがユニークでユーモラスなデザインが少なくない。動物のイラストもあるし、ミュージシャンに滑稽なポーズやファッションを採らせたりしているものもあって、眺めていて飽きない。
 
 本作の主人公Wigginsは、ニューヨークで生まれ、ロサンジェルスに移り住んでから映画やテレビでプレイし、後に女性ジャズヴォーカリストの歌伴等で活躍したピアニスト。Contemporary Recordsでのリーダー作の吹き込みは本作のみのようだが、これまた音質がすこぶる優秀。A面1曲目の「ナルキッサス」の軽快なスウィング感は絶妙だ。
 
 ピアノトリオの演奏に浸りながら、文字通りリラックスして楽しめるアルバムである。
 
「好きな車のデザイン トヨタ2000GT」
執筆者 プロフィール

小原 由夫
オーディオ評論家。測定器メーカーのエンジニア、編集者という経歴をバックボーンに、オーディオおよびオーディオビジュアル分野に転身。ユーザー本位の姿勢でありながら、切れ味の鋭い評論で人気が高い。
自宅には30帖の視聴室に200インチのスクリーンを設置。サラウンド再生を実践する一方で、7000枚以上のレコードを所持。

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