2025年5月

小原由夫のアナログ歳時記 4月21日(月)

オーディオ評論家 小原由夫 による
今日の一曲と日常の記録
レコードと共に時を刻む

4月21日(月) 快晴
 
 今年はドミートリイ・ショスタコーヴィチ没後50年だ。ロシアが生んだ、この偉大な作曲家にスポットライトが当たることがあまりないと普段から嘆いてきた私にとって、多くの人にショスタコーヴィチを知ってもらえるいい機会になると捉え、半ば内心ほくそ笑んでいる。
 ロシア革命から世界大戦、スターリン独裁時代を生き、大粛清と度重なる作品批判、さらには不本意な共産党入党を経験し、希望と失意、苦悩と欺瞞を経て自由を奪われ、不条理の中を生き抜いた不屈の天才芸術家、それがショスタコーヴィチだ。
 
何を隠そう、私は”ショスタコおたく”である。初めて交響曲第5番を聴いた時の衝撃は今でも忘れない。初めてヴァイオリン協奏曲第1番を聴いた時は涙が溢れた。ショスタコに興味を持ち、作品の研究本やその生涯を記した書物等を読むに連れ、どんどん好きになっていった。私のオーディオやクラシック音楽鑑賞の時間は、もはやショスタコ抜きでは成り立たないところまで来ている。
 1937年11月に発表されたショスタコーヴィチの交響曲第5番は、日本では『革命』とい う尤もらしい副題を付けて語られることがあったが、これは日本のレコード会社が勝手につけたもので、オリジナルにそのようなテーマ性は一切ない。作曲当時のショスタコーヴィチが置かれていた立場を面白おかしく比喩したに過ぎないのだ。
 統制に対するささやかな抵抗と反発があっての、交響曲第5番なのである。社会主義国家への期待と絶望、創作に対する抑制と弾圧、芸術家としてのそうした苦悩が、この曲の端々に刷り込まれているとされる。
 手元には、様々な指揮者とオーケストラによる交響曲第5番のレコードがあるが、AP-01に比較的よく載るのは、セミヨン・ビシュコフの指揮者デビューにして、ベルリン・フィルとの初録音となった86年録音のフィリップス盤だ。
 レニングラード出身ということもあり、ビシュコフは故国の大作曲家を大いにリスペクトしているわけだが、ドラマティックで引き締まった、鋼のように強度の高い演奏で、ベルリン・フィルの響きの起伏の大きさと鋭さにも圧倒される。
 このLPをAP-01のスタビライザーを活用して聴く快感がまた堪らない。怒涛のごときフォルテッシモが、微動だにしない重心の低い安定感の元に再現されるからだ。
 さて、没後50年の今年、私はショスタコの作品を一体何回聴くだろうか。もしかしたらその回数は日本一に至るかもしれない。ギネスブックにでも申請しようかしら…!?
私のショスタコーヴィチ観 「ショスタコーヴィチとプログレッシブロックは、同じ香りがする」
執筆者 プロフィール

小原 由夫
オーディオ評論家。測定器メーカーのエンジニア、編集者という経歴をバックボーンに、オーディオおよびオーディオビジュアル分野に転身。ユーザー本位の姿勢でありながら、切れ味の鋭い評論で人気が高い。
自宅には30帖の視聴室に200インチのスクリーンを設置。サラウンド再生を実践する一方で、7000枚以上のレコードを所持。

小原由夫のアナログ歳時記 4月21日(月) Read More »