2024年9月

INTERVIEW Vol.01 濱田政孝様 (株式会社GLANZLAB)

今回は、GLANZLAB 代表取締役の濱田さんに、AP-01や由紀精密についてお話を伺いました。
忌憚のないご意見を頂きながら、濱田さんご自身について伺うインタビューです。

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左から順に インタビュアー:佐竹 株式会社GLANZLAB 代表取締役:濱田さん YUKISEIMITSU AUDIO 開発責任者:永松

佐竹:濱田さんが初めてAP-01をご覧になったのは一年ほど前かと思いますが、まずAP-01の第一印象はいかがでしたか?

濱田:「モロに金属加工だな。これはやったぞ!」と思いましたね。加工屋さんが作ったというイメージがありありとしているから。それと、“日本人の思うレコードプレイヤー”の格好が出来ていると思いました。四角形を守ってくれたな、と。日本人は四角い製品をかっこいいと思う傾向がありますね。他のメーカーの製品を見てもね。

永松:確かに日本のプレイヤーは四角いですね。

濱田:どれだけ性能が良くても四角くないとなかなか売れない。どれだけデザイナーがかっこいい物を作ってくれてもね。日本人は四角。AP-01はまずそこを押さえていたから良かった。

佐竹:AP-01の音の面はいかがでした?

濱田:音はね、あれだけの値段だと、よりプロ的な物でないといけない。だから御社に乗り込んでちょっと話させてもらおうかなと思って。

佐竹:そうでしたか。やはり濱田さんから見るとアームの部分が気になりますか?

濱田:いや、アームやカートリッジだけが音を変えるわけじゃなくて、音響理論から言うとプレイヤー全体が音を作っているんですよ。それをしっかり理解できれば良い物ができる。音響工学ですね。
私の場合だとね、兄貴分がそういった研究室に入ってずっと研究をやっていたのね。その人にカートリッジを渡して学校との付き合いを作って、材料とかから教えてもらったよ。

佐竹:濱田さんは元々音響学を勉強されていて、その後にアームのお仕事をされたんですか?

濱田:そうそう。まあ、私の場合はもっと前、小学校2年から五球スーパーラジオを作っていた。というのも、電気大を出た叔父が私と10歳しか違わない兄貴みたいなもんで、面白がって色々な物を作らせてくれたんです。中学の頃には真空管の物も色々と作れるようになった。その頃から楽器屋さんで修理の仕事をやりながら、無線機を作って電気の勉強もして、バイクのエンジンを分解して...そういう機械加工が好きだったんですね。
それと、父が美術の先生だったこともあって私も美術は出来た方だからデザインにそのまま活かされているんです。

佐竹:学ばれた分野が広いですね。

濱田:そう。だから私1人で5つぐらいの専門分野をやっているわけで、逆に言ったら5人いないと私の作りたい物が作れない。これではとてもじゃないけど生産性がないわけですよ。だから、そういうことも承知の上で私と付き合っていただければ「あいつ変わった男だけどいい所もあるな」となります(笑)。

2024/8/02~04開催 九州ハイエンドオーディオフェア in 福岡でGLANZLAB MH-12 KATANAを搭載したAP-01EM

佐竹:ちなみに、先日福岡のマックスオーディオさんのイベントで、AP-01EMにGLANZさんのアーム(KATANA)を付けてデモをやらせてもらいましたが、どんな印象を持たれましたか?

濱田:1つ言ってもいい?

永松:いや、言わないでください(笑)あの時はあまり良くないところも出ちゃいましたね。

濱田:いや、音のことじゃなくてちょっとデモでの説明なんだけど、例のターンテーブルの導電性の件ね。あの件は2つのことが絡んでいて、1つは静電気のこと。2つ目は表面の材料のことね。プラッターの表面に導電性のアルマイトでコーティングしてるじゃない?あれで音が変わる可能性もあるよね。だから、ちょっと知っている人だと「導電性の処理は柔らかいから、その影響が出ているんじゃないか」とか言いたくなるかもしれない。その辺をうまく話さないと、本当のことを話しても誤解を招く可能性があるから、うまく避けていかないと。それを伝えた方がいいなと思って。

ちなみに、海外ではターンテーブルのアルミにアルマイト処理をしないこともあるんですよ。だから最初から導電性があって静電気を帯びない。ところが日本の製品はほとんどアルマイトをかける。錆びるから。アルミだったらアルマイトをかけるのが当たり前って日本人はみんな思うでしょう。

だから、「私たちはそういう理屈も知っているけども、こういう理由で導電性アルマイトを使っているんです。」と説明すると皆さん理解してくれる。言っていることは合っていても、その一言が無いとツッコミが入る。展示会には詳しい人も沢山来るからね。そういう理屈も知っていることを伝えると「そうか、わかった。」と納得してくれる。それがやっぱり技術のトップになる秘訣だよ。何か音でトラブルが起きた時に「あそこだよ」と言えるのも同じことで、そういうことから「あいつは大丈夫だ。」と信頼してもらえる。そうなるためには、私たちみんなでどんどん知識を溜めていけばいい。

そういえば今回、音源出版さんの“analog”で小原さんが記事を書いてくれたでしょ。記事の中で、遂に私、神様になっちゃってるんだよ。「ちょっと書きすぎだよ!」って(笑)でも、そうやって小原さんが信じてくれているってことだよね。

佐竹:一種のカリスマ化ですね。

濱田:永松さんにも言ったんだけど、Vinyl Audio laboratoryの三宅さんがうちに来たのね。「みんなで協力してやろうよ」って話したんだよ。「俺はアームを作る」そしたら三宅さんが「うちはカートリッジを作るよ」って言うから、「じゃあ俺が昔作ったカートリッジ教えてあげるから」って。
三宅さんと由紀精密との関係も色々と聞いていたから、「いいね、グループになってどんどん一緒に技術上げていってさ、正しい知識を広めよう!」って盛り上がってね。そうなれば「あいつらの言うことは正しい」って納得してもらえるチームが出来ていくと思うよ。

佐竹:一社だけでなくグループで知識を蓄えて広めていこうと。

濱田:そうそう。そうなるといずれは「日本にはあいつらがいる!」ってなるの。かつてはそうだったよ。私の前にだって色々すごい方がいたわけじゃない?今だってカートリッジなら(My Sonic Labの)松平さんがお元気なわけじゃん。ああいう人たちが引っ張ってくれたんだよね。トーンアームの方は、池田さんの後は私って言ってくれる人もるけど。・・・私もそういう風になりたいなと思ってるよ。

佐竹:まだ目指しているところがあるんですね。

濱田:池田さんは神様だったからね。神様2になれるかな(笑)

佐竹:その神様を目指している濱田さんから見て、まだまだAP-01には改良点がありそうですか。

濱田:うん、ちょっとね。400万円もするからね。だけどそれくらいの価格になるのもわかっているから400万円は納得してるよ。それでね、音を聞いた時に、もっとレベルを上げていけるな、って思ったの。だからこそ、みんなで更に頑張って作りこんでいこうよ。

佐竹:GLANZさんのホームページに掲載されている濱田さんの設計思想では3つの大事なこととして、構造物をシンプルにすること、スプリングのような振動しやすい構造体は作らないこと、やむ負えない振動物は幹線道路から外す、といったことを書かれていたと思うんですが、そのあたりのお話も伺えますか。

濱田:うん。結局ね、シンプルになっちゃうの。だって1個1個の部品はみんなノイズの原因になりうるから。ノイズの原因がどの部品にあるかわかる人間になることは大事だよ。
「ここが悪い」って私たちがはっきり言えるようにならなきゃいけない。そうすることで高級オーディオのレベルはどんどん上がっていくんだと思う。

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2024/8/02~04開催 九州ハイエンドオーディオフェア in 福岡に出展したAP-01

永松:その話とも繋がるんですが、先ほど話に上がった福岡のイベントでの音がね、濱田さんには申し訳なかったんですが、良くなかったんですよ。あれは借り物のオーディオラックだったので調整が出来ず、その歪みが如実に出ました。そういうこと含めて相当周りに気を付けないといけないですね。

濱田:私のアーム、今回は窒化処理によって立ち上がりを良くしてやったら、歪みがスパーンと無くなって、みんな「濱田のアームはなんでこんな低音が出るんだ。」って驚いた。でも、それは当たり前なの。歪みがないんだから。そもそも、歪みがあるということは高音がいっぱい出すぎている状態なのね。つまり、無駄な高音が無くなったことで歪みがなくなったの。低音が大きくなったように感じるかもしれないけど必要のない高音が消えた結果として、本来の低音が目立ったってことだね。

で、立ち上がりがバチっとすごいのが1番の魅力。ミュージシャンはそれが出ないと気に入らないわけですよ。フニャーってした立ち上がりじゃダメ。ミュージシャンはその立ち上がりと、自分の思っている音、例えばオーケストラで言ったら後ろの方の音。それが聞こえないようなオーケストラではもう話にならないわけで。歪みを少なくしてやることでその音を出して、やっとミュージシャンが使えるものができた。

クラシックのディレクターの友達の意見も聞いててね、彼はヨーロッパとかそこら中の教会でトップの演奏者と録音してきている人だから、どこの教会はこういう残響音があるとか知っているんだよね。「濱田さん、この音聞こえないよ!」なんて言われる。1ヶ月に1回くらい聴いてもらって、お互いのレベルを上げていく。彼には彼のレベル、私には私のレベルがあって、それが合体してるの。だから一緒にやるってことはとても大事で、更に人数が集まれば本当に良い物ができるわけじゃない?そういう組織が今、出来つつある。

永松:そう言った繋がりで言うと、実は私、My Sonic Labの松平さんにもまだ一度もお会いしたことがないんです。カートリッジは使っているのに。

濱田:そうですか。そしたら一緒に会いに行きましょう。松平さんも80歳超えたからね。「濱田、もうやめたいよー」って言ってる(笑)

彼のためにも私はまだ商品を出すつもり。そうすると良い関係でいられて遠慮なく2人で話ができる。本当は1つだった物をアームとカートリッジの2つに分けたとも言えるから、やっていることは結局同じようなことなんだよね。そういう点で話がとっても合う。

特別な関係な訳ですよ。最高じゃない。そういうのを大事にしたい。

最近やっとこの低音が聞こえるアームを作れて、初めて「あー今、やっと良いものを作ってる」って思うよ。やっぱりちゃんとした物を作ればみんな仲間になってくれるよ。

佐竹:やはり横の繋がりということを強く意識されているんですね。最後になりますが、その繋がりの末席に入れてもらった由紀精密に濱田さんが期待されることは何かありますか?

濱田:それはもう、既に一緒にやってるんだから色々と期待してますよ(笑)「一緒にトップになろう」って。なれるよ!

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濱田さんのアドバイスを受け、新たな挑戦への意欲が湧いてきました。
いただいた知恵を活かし、オーディオ業界の発展に貢献できるよう努力していきます。
貴重なお時間をいただき、ありがとうございました!

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9/29 株式会社のだや 仙台店にてAP-01とAP-01EMの試聴会を行います / On September 9th, a listening event for the AP-01 & AP-01EM will be held at NODAYA in Sendai.

The listening event for the AP-01 & AP-01EM will be held at NODAYA in Sendai.
Date:
Sunday, September 9, 2024
①11:00~12:30
②14:00~15:30
Location:
NODAYA in Sendai

On the day of the listening session, you will also enjoy commentary and talks by Professor Obara and the development manager, Nagamatsu.

Contact us to make an appointment.
株式会社のだや 仙台店にてAP-01とAP-01EMの試聴会を行います。

開催日程:
2024年9月29日(日)
①11:00~12:30
②14:00~15:30
場所:
株式会社のだや 仙台店

試聴会当日には、小原先生と永松による解説、トークもお楽しみいただけます。

必ず予約してお越しください。
予約はこちら

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小原由夫のアナログ歳時記 8月26日(月)

オーディオ評論家 小原由夫 による
今日の一曲と日常の記録
レコードと共に時を刻む

8月26日(月)晴れ

 表に出た途端、溶けてしまうんじゃないかというぐらいの外気温。毎日こう暑いと、近くのコンビニに行くことさえ躊躇してしまう。しかし、晩酌の冷奴用の絹漉し豆腐がないという事態に直面している以上、買物に行かねばと努めているのだが、きっかけ的な踏ん切りが何か欲しいとも思う。

「そうだ、こういう時は毎年夏の定番ソングを聴いて、涼やかな気分に浸った後に出向くとしよう」

 我が家の、というか、我がオーディオシステムの夏の定番は、1979年リリースの「リー・リトナー・イン・リオ」。リトナーが全編アコースティックギターで臨んだ出世作。

 当時のリトナーはJVC/ビクターからダイレクト・カッティングLPを矢継ぎ早にリリースした直後ということもあり、ここ日本ではラリー・カールトンと共に西海岸フュージョン系ギタリストとして人気を二分していたっけ。そんな彼がエレキからアコギに持ち替えたとあって、当時大いに話題を集めた。

 このLP、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロでのベーシック録音の他、ロサンゼルスとニューヨークで当時売れっ子ミュージシャンを起用して制作されたのだけれど、私が好きなのは専らリオ録音/ミキシングのトラック。中でもA-1<Rainbow>がお気に入り。名手ドン・マレーの録音は、アコースティック楽器の微細なニュアンスまで細大漏らさず収録した、ディテイル描写にすこぶる長けたサウンド。それだけにターンテーブルの静粛かつ安定した回転性能が肝心と思ってる。

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 そこにいくと、AP-01の『シンメトリーレイアウト糸ドライブ』は理想的といえそう。垂直に倒立して永遠に回り続けるコマを規範として、傾かないよう最小限の力でそれを支えるべく、左右対称の機構にて動力を伝える駆動系である。この部分は筐体から独立しており、両方向から各々2本のスプリングを介してモーターとテンショナーの均衡を保つ。その力を伝達する糸も、吟味を重ねた化学繊維製。AP-01を構成する重要な要素のひとつで、まさしく“ヒモ”、否、肝なのだ。

 リオの現地ミュージシャンが繰り出すリズムがタイト過ぎず、ほどよい按配でルーズな感じで、そこに美しいストリングスが相まったリトナーのギターと絡むと、さしずめ一服の清涼剤の如く、気分をクールダウンさせてくれるのである。

 リトナーが爪弾くガットギターの、ナイロン弦が指の腹に当たる音。あるいは左手がネックの上を滑る「キュッ、キュッ」という摩擦音は、とにもかくにもデリケートさが要求される要素。そこを極めて丁寧に再現してくれるAP-01のこの駆動機構。それをただ眺めて惚れ惚れしている自分がいる。

 さぁて、気分も爽やかになったところで、買物に出るとするか。おっと、ビールも忘れず買わなくちゃ!

「好きなビールは、断然キリン派!」
執筆者 プロフィール

小原 由夫
オーディオ評論家。測定器メーカーのエンジニア、編集者という経歴をバックボーンに、オーディオおよびオーディオビジュアル分野に転身。ユーザー本位の姿勢でありながら、切れ味の鋭い評論で人気が高い。
自宅には30帖の視聴室に200インチのスクリーンを設置。サラウンド再生を実践する一方で、7000枚以上のレコードを所持。

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