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小原由夫のアナログ歳時記 8月26日(月)

オーディオ評論家 小原由夫 による
今日の一曲と日常の記録
レコードと共に時を刻む

8月26日(月)晴れ

 表に出た途端、溶けてしまうんじゃないかというぐらいの外気温。毎日こう暑いと、近くのコンビニに行くことさえ躊躇してしまう。しかし、晩酌の冷奴用の絹漉し豆腐がないという事態に直面している以上、買物に行かねばと努めているのだが、きっかけ的な踏ん切りが何か欲しいとも思う。

「そうだ、こういう時は毎年夏の定番ソングを聴いて、涼やかな気分に浸った後に出向くとしよう」

 我が家の、というか、我がオーディオシステムの夏の定番は、1979年リリースの「リー・リトナー・イン・リオ」。リトナーが全編アコースティックギターで臨んだ出世作。

 当時のリトナーはJVC/ビクターからダイレクト・カッティングLPを矢継ぎ早にリリースした直後ということもあり、ここ日本ではラリー・カールトンと共に西海岸フュージョン系ギタリストとして人気を二分していたっけ。そんな彼がエレキからアコギに持ち替えたとあって、当時大いに話題を集めた。

 このLP、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロでのベーシック録音の他、ロサンゼルスとニューヨークで当時売れっ子ミュージシャンを起用して制作されたのだけれど、私が好きなのは専らリオ録音/ミキシングのトラック。中でもA-1<Rainbow>がお気に入り。名手ドン・マレーの録音は、アコースティック楽器の微細なニュアンスまで細大漏らさず収録した、ディテイル描写にすこぶる長けたサウンド。それだけにターンテーブルの静粛かつ安定した回転性能が肝心と思ってる。

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 そこにいくと、AP-01の『シンメトリーレイアウト糸ドライブ』は理想的といえそう。垂直に倒立して永遠に回り続けるコマを規範として、傾かないよう最小限の力でそれを支えるべく、左右対称の機構にて動力を伝える駆動系である。この部分は筐体から独立しており、両方向から各々2本のスプリングを介してモーターとテンショナーの均衡を保つ。その力を伝達する糸も、吟味を重ねた化学繊維製。AP-01を構成する重要な要素のひとつで、まさしく“ヒモ”、否、肝なのだ。

 リオの現地ミュージシャンが繰り出すリズムがタイト過ぎず、ほどよい按配でルーズな感じで、そこに美しいストリングスが相まったリトナーのギターと絡むと、さしずめ一服の清涼剤の如く、気分をクールダウンさせてくれるのである。

 リトナーが爪弾くガットギターの、ナイロン弦が指の腹に当たる音。あるいは左手がネックの上を滑る「キュッ、キュッ」という摩擦音は、とにもかくにもデリケートさが要求される要素。そこを極めて丁寧に再現してくれるAP-01のこの駆動機構。それをただ眺めて惚れ惚れしている自分がいる。

 さぁて、気分も爽やかになったところで、買物に出るとするか。おっと、ビールも忘れず買わなくちゃ!

「好きなビールは、断然キリン派!」
執筆者 プロフィール

小原 由夫
オーディオ評論家。測定器メーカーのエンジニア、編集者という経歴をバックボーンに、オーディオおよびオーディオビジュアル分野に転身。ユーザー本位の姿勢でありながら、切れ味の鋭い評論で人気が高い。
自宅には30帖の視聴室に200インチのスクリーンを設置。サラウンド再生を実践する一方で、7000枚以上のレコードを所持。