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小原由夫のアナログ歳時記 5月26日(月)

オーディオ評論家 小原由夫 による
今日の一曲と日常の記録
レコードと共に時を刻む

5月26日(月) 曇り
 
 ストレートというキーワードから、貴方ならどんなことを想像するだろう。文字通りの、真っ直ぐな性格とか、実直さとかだろうか。
 オーディオの世界で「ストレート」といえば、信号をロスなく忠実に伝送することが真っ先に思い浮かぶ。「ストレート・ワイヤー・ウィズ・ゲイン」なんていうアンプの格言もあるくらいだ。
 
 もうひとつが、アナログプレーヤーの「ストレートアーム」。一般的なトーンアームは、パイプの途中が曲がっている。S字型とか、J字型と呼ばれる形状だ。これは、ターレスの定理-円周上の相違なる2点A,Cを端点とする線分ACが円の中心を含むなら、角ABCは直角である-に基づく対策であり、具体的には、カートリッジの針先に必ずオフセット角が設けられているのだが、これを採用していない真っ直ぐなパイプのトーンアームを「ストレートアーム」という。由紀精密のAP-01に採用されているのもその形状だ。
 ストレートアームはトラッキングエラーが付き物だ。前述したオフセット角が設けられていないからで、これが原因で少なからず歪みが発生する。特にレコードの内周側でそのエラーが増大する傾向があり、これを由とするかするか否とするかは製造元(メーカー)の考え方次第で、その歪みを許容できるか否かもユーザーが判断することになる。
 私はこの歪みがイヤで、ストレートアームが嫌いだった。少なくともAP-01に出会うまでは。
 
 何でも試し、体験してみなければ真実はわからないと、AP-01を聴いて実感した。トラッキングエラー歪みが全く気にならないのだ。ピアノの余韻にジリジリとしたビビリ音のようなもの、ヴォーカルのサシスセソの発音にまとわりつくようなくすみ音がしない(正確 にはミクロレベルでは発生しているのかもしれないが、気にならない)。これには大いに 驚いた。
 
 嘘だと思うなら、ぜひ実際の音を聴いてみてください。この6月に、有楽町の国際フォーラムで開催される「OTOTEN 2025」で聴けます。
 さて、ストレートと言えば、ジャズの名曲に「ストレート、ノー・チェイサー」がある。セロニアス・モンクが作曲したビバッブの代表曲で、手持ちのアルバムの中では、トミー・フラナガンを中心とした「ザ・スーパー・トリオ」の演奏が好きでよく聴いている。
 この場合のストレートは、ウィスキーを水で割ることなく、氷も入れず、そのまま。口直しの水を一杯添えて、という話だ。
 
 何とも粋である。ちなみに私は、ストレートでウィスキーを飲むことはほとんどなく、だいたいソーダ割り。軟弱者である。
「私のストレート観 DeNAベイスターズ/東投手の投げるインハイ」
執筆者 プロフィール

小原 由夫
オーディオ評論家。測定器メーカーのエンジニア、編集者という経歴をバックボーンに、オーディオおよびオーディオビジュアル分野に転身。ユーザー本位の姿勢でありながら、切れ味の鋭い評論で人気が高い。
自宅には30帖の視聴室に200インチのスクリーンを設置。サラウンド再生を実践する一方で、7000枚以上のレコードを所持。