RECORD_CHRONICLE

小原由夫のアナログ歳時記 11月17日(土)

オーディオ評論家 小原由夫 による
今日の一曲と日常の記録
レコードと共に時を刻む

11月17日(土)曇り

 今年の夏は酷暑で長かった所為で、秋が短く感じられる。童謡に「小さい秋見つけた」という一節があるが、小さいどころか、微小という感じさえする。報道によれば、紅葉もあまり期待できず、葉の色付きが悪いらしい。冬の気配がもうすぐそこまで来ているのかもしれない。
 
 秋といえば、「食欲の秋、スポーツの秋、読書の秋」だ。食欲の秋は、気温が下がって基礎代謝が上がるため、寒い冬に備えてカロリーを蓄えるべく、旬を迎えた美味しいものを食べようということらしい。スポーツの秋は、1966年10月10日に「体育の日」が制定されたことに由来する。読書の秋は、過ごしやすくて静かな秋の夜長は、読書にピッタリだからとか。
 
 私なんぞは「秋→落葉→焼き芋」という三段論法が即座に思い浮かぶ。手押し車での「石焼き芋」の販売は近年ほとんど見掛けなくなった。軽トラでさえ稀。専らスーパーのワゴンで売っているのを見る程度。しかし、やっぱり焼き芋は、こんもり盛った落葉の中で焼いたのが美味しそう。
 
 ここで無理矢理、落葉イコール枯葉ときて、ジャズの大スタンダードナンバー、「Autumn Leaves」にこじつけることになるわけだが、これは元々シャンソンの名曲。1945年のバレエ「ランデ・ヴー」のために書かれたジョセフ・コスマの曲に、後にジャック・プレヴェールが詞をつけ、50年にジョニー・マーサーが英語詞を書いたとされている。
 
 ジャズを筆頭にたくさんの演奏が残されているが、私が即座に思い浮べるのは、女性ジャズ・ヴォーカリスト、サラ・ヴォーンが82年にリリースした「Crazy and Mixed Up」に収録されている「Autumn Leaves」だ。

 なんとここでのサラ、素敵な歌詞に反発でもしたのか、全編スキャットで歌っているんだなこれが!スキャットとは、即興的な歌唱法で、擬声語等を使って歌う独唱のこと。「シャバダバ」や「ドゥビドゥバ」といった音声をメロディーに合わせて歌うのだが、このアルバムでのサラの「Autumn Leaves」は、それが元々の歌詞であるかのようにサラリと、しかも抑揚や強弱を巧みに駆使して歌っている。その様が実にかっこいい。テンポはオリジナル曲よりずっと早く、ギター・カルテットの伴奏では、イントロと間奏部のジョー・パスによるソロが素晴らしい。一般的な「Autumn Leaves」しか聴いたことがない人にとって、このサラ版は、新鮮というか、かなり衝撃的だろう。
 反発といえば、AP-01のマグネットベアリング方式にこれまたこじつけるのだが、永久磁石の磁気反発作用により、軸受けの上部/下部の2箇所から回転部を水平に保持している。接触しているのは、シャフト最下端の1点のみ。環状に配された強力な磁石の力の賜物で、これがAP-01を唯一無二のアナログプレーヤー足らしめている。AP-01で聴くサラの「Autumn Leaves」は、スカッと爽快だ。
 なお、ご本人の名誉のために書き記しておくが、サラは何も歌詞に反発してスキャットで全編歌い切ったワケではないと思います、ハイ。
「My秋の味覚は、ゴボウの炊き込みご飯と、戻り鰹のタタキで一献!!」
執筆者 プロフィール

小原 由夫
オーディオ評論家。測定器メーカーのエンジニア、編集者という経歴をバックボーンに、オーディオおよびオーディオビジュアル分野に転身。ユーザー本位の姿勢でありながら、切れ味の鋭い評論で人気が高い。
自宅には30帖の視聴室に200インチのスクリーンを設置。サラウンド再生を実践する一方で、7000枚以上のレコードを所持。

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小原由夫のアナログ歳時記 10月12日(土)

オーディオ評論家 小原由夫 による
今日の一曲と日常の記録
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10月12日(土)晴れ時々曇り

 後味の悪い夢を見た。朝起きてトイレに行くと、便器がない。夜半に目覚めてトイレに行った時には確かにあった。家内に尋ねると、子供たちを連れて出ていくと言いながら、件の便器を粛々と段ボール箱に詰めている。どうやら私が夫婦関係を裏切ったとかで、かなりご立腹の様子。だからといって便器を持って出ていくのは、いかがなものか。斯くして私はもよおしたまま、朝の近所を徘徊することになった。
 
 ここでハッと目が覚めた。夢とわかってホッと安堵したことはいうまでもない。家内は洗濯物を干している。子供たちはとっくに成人して巣立っている。何より安心したのは、然るべき場所に便器がきちんと鎮座していたこと。徘徊は夢の中だけでたくさんだ。
 
 神に誓ってこれは言っておくが、今朝の夢と現実がシンクロしているようなことは決してない。つまり、家内を裏切ったことはないと、ここにしっかり書き残しておく。
 
 とはいえ、夢とは実に不思議なもので、現実にシンクロしている夢を見ることもあれば、非現実的で突飛な夢を見ることもある。
 
 シンクロといえば、私のようなエンジニア上がりの人間は、某計測機メーカーがオシロスコープを『シンクロスコープ』という固有名詞で呼ばせていたことをご存じだろう。他方、音楽ファン、特にロックファンには、ポリスの「シンクロニシティー」が広く知られるところか。
 
 英国出身のロックバンド、ポリスは、レゲエを基礎としながらそれをパンク的手法で料理し、洗練されたポップスへと昇華させた。そのひとつの集大成が、彼らの5枚目のアルバムにして最高傑作の呼び声が高い83年作の「シンクロニシティー」である。
 
 そのLPで私が最も好きなのがA面6曲目、最内周の「Synchronicty II」だ。ニューウェイブの香りもちりばめたバンド後期の代表曲で、スチューワート・コープランドが繰り出す高速かつ変速的なビートに乗って、アンディ・サマーズの特徴的なギターリフが炸裂する。スティングのヴォーカルが実にカッコよくて堪りません!
 ここでAP-01のピュアストレートアームに備わったヒステリシス・ブレーキが最大の効能を発揮する。これはアームの根元部分に仕込まれたマグネットのN極とS極それぞれが強磁性体との相互作用によってアームの振動を遮断するもの。音溝に沿って針先だけが忠実に振動してほしいアナログ再生において理想的な再生環境を実現した、AP-01のオリジナル機構である。これがあるから「Synchronicty II」の疾走感がバッチリ決まるんだよなぁ。
 
 そういえば、ソロになってスティングが出した最初のアルバムは、「ブルー・タートルの夢」というタイトルだったっけ。亀になった夢でも見たんだろうか…。
 
「最近観たゴキゲンな夢:五輪卓球元代表の石川佳純ちゃんとお付き合いしている夢!」
執筆者 プロフィール

小原 由夫
オーディオ評論家。測定器メーカーのエンジニア、編集者という経歴をバックボーンに、オーディオおよびオーディオビジュアル分野に転身。ユーザー本位の姿勢でありながら、切れ味の鋭い評論で人気が高い。
自宅には30帖の視聴室に200インチのスクリーンを設置。サラウンド再生を実践する一方で、7000枚以上のレコードを所持。

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小原由夫のアナログ歳時記 9月17日(火)

オーディオ評論家 小原由夫 による
今日の一曲と日常の記録
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9月17日(火)晴れ時々曇り

 9月はなにかと気忙しい。毎年カーオーディオのイベントが月初にあり、中旬には年中行事の地元神社の祭礼。この2件の日程が重なったりするとかなり厄介で、仕事に穴を開けるわけにいかないし、町内会の三役を仰せ使っている身として祭礼の欠場は憚られる。過去にはそんな悲劇的な事態がまさしくあったのだが、まだ町内会の重要ポストに着いていない頃だったので、仕事を優先させてもらった(後で多少顰蹙(ひんしゅく)を買ったようだったが…)。

 外国語で祭りは「フェスティバル(Festival)」、または「Feast」。『○○音楽祭』とか、『××フェスティバル』と銘打ったアルバムは数多くリリースされているが、そのほとんどはライブ盤で、祭をテーマにした楽曲は、ポップスもジャズも、意外とあるようでない(歌謡曲や演歌にはたくさんあったような…)。

 一方でクラシックにはあれこれ結構ある印象だ。謝肉祭とか、宗教的祝祭とか、西洋文化特有のものが大半だけれど…。

 手持ちのクラシック・レコードの中で祭ですぐ思い浮かぶのが、米Reference Recordsの「FIESTA!」。ハワード・ダン指揮、ダラス吹奏楽団の演奏だ。グラミー賞の優秀録音賞に何度もノミネートされているエンジニア/キース・O・ジョンソン氏が録音技師として関わっている高音質レーベルからの91年作。

 でもこれ、手に入れた時から盤が反っているんだよね。2枚組のうちの1枚の外周側が部分反りしていて、針圧が軽いと危うくカートリッジがバウンドしそうになる。

 盤面の中心部を押さえる一般的なセンタースタビライザーは、こういう反りにはあまり効果がないので困るワケだが、AP-01には必殺の飛び道具、外周スタビライザー(別売オプション)がある! これを使えば外周型の部分反りもほぼ解消できるのだ。これはセンタースタビライザーと併用して初めて相乗効果が期待できるもので、まずセンタースタビライザーを置き、次いでレコードの外の縁に沿って外周スタビライザーをそっと乗せる。慣れるまで、これがおっかなびっくりでね。

 それはそうと、このレコード、無茶苦茶音がいい! A面1曲目、H.Owen Reedの「La Fiesta Mexicana」は、鐘の音に続いて振り落とされるグランカッサ(大太鼓)の響きの重く豊かなことといったらない。ステージ奥の方から鳴り響く鼓笛隊の合奏もたいそう立体的だ。高音域の伸びやかさも素晴らしいが、重心の低い安定した低音域は圧巻。外周スタビライザーのおかげで、それが少しも危なげなく堂々と再現される。

STABILIZER
専用外周スタビライザー

 そういえば“反り”で思い出した。11月には町内対抗の大運動会が小学校の校庭であるんだったっけ。綱引きはここ数年初戦敗退しているから、今から縄持つ練習をして身体を反らせてみるか!?

「綱を引くときは、責任を負わなくて済む中腹のポジション!」
執筆者 プロフィール

小原 由夫
オーディオ評論家。測定器メーカーのエンジニア、編集者という経歴をバックボーンに、オーディオおよびオーディオビジュアル分野に転身。ユーザー本位の姿勢でありながら、切れ味の鋭い評論で人気が高い。
自宅には30帖の視聴室に200インチのスクリーンを設置。サラウンド再生を実践する一方で、7000枚以上のレコードを所持。

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小原由夫のアナログ歳時記 8月26日(月)

オーディオ評論家 小原由夫 による
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8月26日(月)晴れ

 表に出た途端、溶けてしまうんじゃないかというぐらいの外気温。毎日こう暑いと、近くのコンビニに行くことさえ躊躇してしまう。しかし、晩酌の冷奴用の絹漉し豆腐がないという事態に直面している以上、買物に行かねばと努めているのだが、きっかけ的な踏ん切りが何か欲しいとも思う。

「そうだ、こういう時は毎年夏の定番ソングを聴いて、涼やかな気分に浸った後に出向くとしよう」

 我が家の、というか、我がオーディオシステムの夏の定番は、1979年リリースの「リー・リトナー・イン・リオ」。リトナーが全編アコースティックギターで臨んだ出世作。

 当時のリトナーはJVC/ビクターからダイレクト・カッティングLPを矢継ぎ早にリリースした直後ということもあり、ここ日本ではラリー・カールトンと共に西海岸フュージョン系ギタリストとして人気を二分していたっけ。そんな彼がエレキからアコギに持ち替えたとあって、当時大いに話題を集めた。

 このLP、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロでのベーシック録音の他、ロサンゼルスとニューヨークで当時売れっ子ミュージシャンを起用して制作されたのだけれど、私が好きなのは専らリオ録音/ミキシングのトラック。中でもA-1<Rainbow>がお気に入り。名手ドン・マレーの録音は、アコースティック楽器の微細なニュアンスまで細大漏らさず収録した、ディテイル描写にすこぶる長けたサウンド。それだけにターンテーブルの静粛かつ安定した回転性能が肝心と思ってる。

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 そこにいくと、AP-01の『シンメトリーレイアウト糸ドライブ』は理想的といえそう。垂直に倒立して永遠に回り続けるコマを規範として、傾かないよう最小限の力でそれを支えるべく、左右対称の機構にて動力を伝える駆動系である。この部分は筐体から独立しており、両方向から各々2本のスプリングを介してモーターとテンショナーの均衡を保つ。その力を伝達する糸も、吟味を重ねた化学繊維製。AP-01を構成する重要な要素のひとつで、まさしく“ヒモ”、否、肝なのだ。

 リオの現地ミュージシャンが繰り出すリズムがタイト過ぎず、ほどよい按配でルーズな感じで、そこに美しいストリングスが相まったリトナーのギターと絡むと、さしずめ一服の清涼剤の如く、気分をクールダウンさせてくれるのである。

 リトナーが爪弾くガットギターの、ナイロン弦が指の腹に当たる音。あるいは左手がネックの上を滑る「キュッ、キュッ」という摩擦音は、とにもかくにもデリケートさが要求される要素。そこを極めて丁寧に再現してくれるAP-01のこの駆動機構。それをただ眺めて惚れ惚れしている自分がいる。

 さぁて、気分も爽やかになったところで、買物に出るとするか。おっと、ビールも忘れず買わなくちゃ!

「好きなビールは、断然キリン派!」
執筆者 プロフィール

小原 由夫
オーディオ評論家。測定器メーカーのエンジニア、編集者という経歴をバックボーンに、オーディオおよびオーディオビジュアル分野に転身。ユーザー本位の姿勢でありながら、切れ味の鋭い評論で人気が高い。
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