2025年2月

小原由夫のアナログ歳時記 1月21日(火)

オーディオ評論家 小原由夫 による
今日の一曲と日常の記録
レコードと共に時を刻む

1月21日(火) 快晴
 
 都市部を含む関東地域では、昨年12月のひと月に雨がほとんど降らなかった。そのせいで空気が異常に乾燥し、火災の頻発やインフルエンザの蔓延が助長されたように思う。私も日中や就寝時に加湿器の恩恵に与っているが、乾燥は人体(喉や肌)のみならず、オーディオにも悪影響をおよぼす。
 
 いわずもがな静電気である。この時期、誰しもありがちで、機器の金属部に触れる際、「バチッ」という衝撃が走って手を窄めたりする。もっと厄介なのは、レコードの盤面に帯電する静電気で、これが埃や塵を誘因し、盤面にそれらが付着してしまうのだ。それを落とすのに除電ブラシを使ったりするわけだが、実は再生中にも静電気は発生し続けており、回転している盤面に埃等が付着する。これを防ぐべく、プラス/マイナスイオンを発生させて再生中の盤面の静電気を中和させるアクセサリーなども市販されている。
 ターンテーブルにレコードを乗せる際に比べれば、外す時の方が大きな静電気が発生しやすい。レコードを持ち上げる際に「バチッ」という現象を体験した方は多いことだろう。カートリッジとレコードの音溝の摩擦によって静電気が発生することが主な要因で、瞬間的には数百Vにまで達し、それがノイズとなって再生音に悪影響を与える。
 
 AP-01には、こうした静電気を防止するような工夫が凝らされている。静電気の滞留を抑えるために、プラッターの表面に導電性を有した特殊な処理が施してあるのだ。それにより、特別なアクセサリーを併用せずとも、プラッターに直接レコードを乗せても静電気がある程度抑制されているのがわかる。
 埃や塵が乗ったままでレコードを再生すると、「パチパチ、ブチブチ」とノイズが出やすい。大編成のオーケストラやロックを大きな音で再生している場合はあまり気にならないが、小編成の音楽を聴いている時は、どーしても気になる。ピアノソロ演奏などは覿面(てきめん)だ。
 
 敬愛するジャズ・ピアニスト、ビル・エヴァンスの68年のピアノソロ作「アローン」のレコードを掛ける際、私は静電気に人一倍気を使う。エヴァンス特有の静謐(せいひつ)なリリシズムが、「パチパチ、ブチブチ」のノイズで消されてしまっては興醒めだからだ。
 
 それまでに自身のプレイでの多重録音作を2枚制作してきたエヴァンスだが、無伴奏による完全な独創ピアノ作品は、公式には本盤が初となる。自身によるライナーノーツの中で、「プロの演奏家であるにも関わらず、聴衆のいない環境での演奏をどちらかというと好む」と発言している。それだけ本作には彼のピュアな心情がストレートに演奏に反映されていると見ていいだろう。例えば片面(SIDE-B)全面にカッティングされた14分にもおよぶ「Never Let Me Go」は、聴いていて心が洗われるようで、グイグイと演奏に引き込まれる。あまりに美し過ぎるのだ。
 
 人間関係、あるいは国家間と同様、「バチバチ」した関係はあまり宜しくないものですな…。 
「2025年 私の目標 休肝日をつくる!」
執筆者 プロフィール

小原 由夫
オーディオ評論家。測定器メーカーのエンジニア、編集者という経歴をバックボーンに、オーディオおよびオーディオビジュアル分野に転身。ユーザー本位の姿勢でありながら、切れ味の鋭い評論で人気が高い。
自宅には30帖の視聴室に200インチのスクリーンを設置。サラウンド再生を実践する一方で、7000枚以上のレコードを所持。

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