2025年4月

小原由夫のアナログ歳時記 3月19日(水)

オーディオ評論家 小原由夫 による
今日の一曲と日常の記録
レコードと共に時を刻む

3月19日(水) 曇り時々雨
 
 世界のバランスとは、どうすればうまく保てるのだろうか。
 おぉーっと、いきなり私らしくない大仰なテーマを掲げてきたぞと思われても仕方がないが、人類一人一人が健やかに生きていく上で、これは最も大事な尊厳ではなかろうか。
 バランスが崩れると戦争が勃発したり、経済摩擦が生じたりする。何はさておき、地球全体のバランスが崩れているのが、現在の異常気象、温暖化現象といってよい。
 何事においても均衡を維持するのは大変だ。『パワーバランス』という言い方があるように、押したり引いたりの力が働いて均衡が保たれているわけで、世の中の多くの事がそれでバランスを保っている。身近にだっていっぱいある。会社での上司との関係、ご近所付き合い、夫婦仲、etc…。
 
 AP-01のプラッターも絶妙なバランスで回っている。マグネットベアリング方式で垂直状態が維持され、モーターとプーリーによる左右対称の一対の機構間に張られた糸がプラッターを静粛に回転させることで均衡が保たれている。引き合うスプリングと振動吸収のためのマグネシウムがこのメカブロックに仕込まれているのだ。
 バランスやシンメトリーという点で即座に思い浮かぶアナログ盤は、レコードジャケットのモチーフが“対称”になっているピンク・フロイドの1994年作「DIVISION BELL」だ。7年ぶりのスタジオアルバムで、『コミュニケーションの欠如による対立』が作品のテーマになっているようだ。
 本アルバムのサウンドは、ダイナミックレンジが滅法広く、タイトな低域に支えられたピラミッド状のエネルギーバランスに感じる。鋭いギター・リフ、重厚なオーケストレーション等も相まって、今日本作は、86年以降3人になった新生ピンク・フロイドの最高傑作といわれている。
 1985年、ベースのロジャー・ウォーターズがバンドを脱退すると同時にバンドの解散を画策したが、ギターのデヴィッド・ギルモアを含む他の3人がバンドを継続。ウォーターズはそれに異を唱え、起訴を起こした。これが後に双方の大きな対立に発展し(このことも「DIVISION BELL」のコンセプトに包含されているのかもしれない)、そのわだかまりは今日まで続いている。つまりピンク・フロイドは、バランスを崩した結果、継続が困難になったのだ。
 
 なお、何を隠そう、本アルバムの邦題は、「対/TSUI」。まさしく絵柄通りなのでありました。チャンチャン。
「シンメトリーで思い浮かぶもの 漢字の”音”」
執筆者 プロフィール

小原 由夫
オーディオ評論家。測定器メーカーのエンジニア、編集者という経歴をバックボーンに、オーディオおよびオーディオビジュアル分野に転身。ユーザー本位の姿勢でありながら、切れ味の鋭い評論で人気が高い。
自宅には30帖の視聴室に200インチのスクリーンを設置。サラウンド再生を実践する一方で、7000枚以上のレコードを所持。

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