OTOTENを6月に控え、今年もサエクコマース・光城精工・前園サウンドラボ・由紀精密の4社合同で出展をします。この4社合同という形式も今年で4年目。4社の代表が仲良しなことも段々とお馴染みになってきているようです。
今回は、そんな4社の輪郭がこれまでより少しくっきりするような読み物をお届けします。OTOTENや試聴会ではあまり語られることのなかったパーソナルな部分や4社が集まった経緯、関係性、それぞれの設計思想。
OTOTENの前に読むと、当日の景色がこれまでとは少し違って見え、
OTOTENの後に読むと、「なるほど、こんな背景があったのか」と答え合せができるかもしれません。
第一回目はサエクコマースの北澤社長と由紀精密の永松の対談です。前後編で語ります。
後編 トークテーマ
【4社の出会い】
・始まりは10年前
【今年のOTOTENでは何を出品する?】
・SAECと由紀精密のコラボ商品
・約40年ぶりのロングアーム
・由紀精密は時間との戦い
【それぞれのオーディオ論、設計思想】
・デザインとして見たAP-0
・アイデアを出し合い、参入も歓迎するライバル同士
・多様な製品群を貫く一貫性
・振り切りから生まれたブランド性
・オフレコ…
サエクコマース株式会社 代表取締役社長 北澤慶太 (WEB)
株式会社由紀精密 取締役社長 永松純
インタビュアー:株式会社由紀精密 佐竹大祐
4社の出会い
始まりは10年前
佐竹:2つ目の質問は視点を変えて、4社はどうやって集まっていったのか、その歴史について教えてください。
北澤:昔、東京でハイエンドオーディオショーというのがあって、そこでも広い部屋を何社かでシェアしていたんです。ある年に「部屋のテーマを決めてやろう」って話が出て、ちゃんとデザインをした衝立てに会社名を入れて部屋を暗くする試みをやったんですよ。ただ時間割りに沿ってA社B社とデモを進めるだけじゃなくて、共通の雰囲気を持たせたことが印象に残ってて。で、その後も色んなメーカーさんと話していく中で光城精工の土岐さんと「一緒にやろう」ってことになり、その後すぐに前園サウンドラボの前園さんも加わってくれて、各地で一緒にイベントをやらせてもらうようになりました。それが10年くらい前かな。
アクセサリーメーカーってなかなか大きい部屋をもらいにくいこともあって、折角展示をしてもなかなかアピールしにくいと思ってたんです。そこでTAOCさんも加わって「4社でまとまってやるので、部屋をください」とやったわけです。そうするとお客さんも楽しんでくれるし、お店側も「面白いね」と言ってくれて手応えを感じたんです。だからOTOTENの話が来た時にも自然な流れで「これは4社でやろうよ」ってスタートしましたね。
で、その後、ピンと来たのが永松さんだった。「一緒にやってください」って声かけたら、二つ返事でOKしてくれましたよね。
永松:はい。そんな機会はなかなかないですし、私たちもOTOTENに出たくても、どうしたらいいかわからなかったので。
北澤:やっぱり一つの部屋を盛り上げようとなると、みんなの気持ちがある程度同じ方向を向いてないと、ちょっとギクシャクしちゃうこともあるじゃないですか。「永松さんならそこは大丈夫!」って思って、迷うことなく誘いました。みんなに相談する前に電話してました。(笑)
今年のOTOTENでは何を出品する?
SAECと由紀精密のコラボ商品
佐竹:3つ目の話題です。今年のOTOTENは何を出品しますか?
北澤:SAECはズバリ、久しぶりのロングアームを展示します。WE-712という新しいモデルで、ぜひ楽しみにしていてください。それと、外周スタビライザー用のマットの話もしちゃっていいの?コラボ商品の。
永松:え、ここで言いますか?
北澤:じゃあもうOTOTENに出すってことで。
永松:…じゃあ、うちも急がないと。(笑)
北澤:由紀精密さんの外周スタビライザーとSAECのターンテーブルマットをコラボ商品としてOTOTENでお披露目したいと思ってます。
永松:面白い製品になると思いますよ。
北澤:もちろん別々でもご購入いただけます。
永松:今回のOTOTENで皆さんの反応が楽しみですね、これまでにない製品になるはずです。
佐竹:ちなみにSAECさんのマットは今回はどんな素材を使われるんですか?
北澤:アルハイス(高精度アルミ合金)っていう、既にうちで出しているターンテーブルマットと同じ素材です。
永松:平面度がすごく綺麗に出る特殊なアルミ材ですね。
約40年ぶりのロングアーム
佐竹:話を戻しますが、SAECさんはOTOTENにロングアームも出すんですね。
北澤:はい、ちょうど今こちらにあるんですが、本当に出来たて。一部の部品は由紀精密さんで作っていただいてます。
佐竹:今回、ロングアームを作られたのは何故ですか?
北澤:うちはずっとショートアームを作っていて、ロングアームにはしばらく手を出してこなかったんですが、日本では圧倒的にロングアームが支持されるんですよね。この間も、とあるお店で聴き比べのイベントをやった時に「どっちが好きですか?」って聞いたら9対1ぐらいの割合でロングに手が上がって。それを見て「ロングアームも絶対にやらなきゃダメだな」と思った。
永松:トラッキングエラーに関してはロングの方が有利ですしね。
北澤:そう。やっぱり有利なところがある以上は、そこを活かしてみようと。
佐竹:SAECさんがロングアームを出すのは何年ぶりですか?
北澤:40年ぶりぐらいです。アーム製作をやめていた時間も長かったんで。
さっきの永松さんの質問にちょっと戻るんだけど(前編参照)、昔出していた製品を新たな製品として出すには、やっぱりそれを超えていかなきゃいけないっていう気持ちが出てきますよね。当然、昔の製品と比べられるし、きっと「数あるロングアームの中でSAECはどういう音なの?」という興味もあると思うので。そこはプレッシャーにはなりますけど、SAECが作るロングアームの音を感じて欲しいですね。まだまだ詰める所はあるので、なんとかOTOTENまでにはいい音にしたいと思います。
由紀精密は時間との戦い
佐竹:由紀精密は今年のOTOTENでは?
永松:今年はですね…やりたいことは色々とあるんですけど、ちょっとまだ検討中です。
佐竹:去年展示したイオナイザーはどうですか?コンセプトモデルの反応は大きかったですよね。
永松:反響がすごかったですね。みなさん欲しいんだなと思いました。ただ、コンセプトモデルそのままの製品にはできないので、どうしようかな?
北澤:あれはイオナイザーから盤面までの近さが良かったですね。見た目も含めて「効きそう!」って思った。
永松:イオナイザー以外にも、次のターンテーブルも構想だけはずっとしているんですが…
北澤:次があるんですね!?
永松:そうなんです。ずっと構想はしてるんですけど、開発のタイミングを計ってます。
北澤:それは興味津々だなぁ。
永松:試作だけでも出せたらいいんですけど、そこまで持っていけるかどうか…期間もそんなにないから今回は難しいかな。来場いただいてからのお楽しみ、ということで。(笑)
それぞれのオーディオ論、設計思想
デザインとして見たAP-0
佐竹:最後のテーマです。それぞれのオーディオ論、設計思想に踏み込めればと思います。それぞれお相手に対して「御社の製品のここが好き」とか「これすごいと思うんだけど、あれどうなってるの?」など率直に伺いたいです。
北澤:僕、AP-0が出た時に結構な衝撃を受けたんです。「かっこいい!」って。それで、「あれ、誰が作ってるの?」って人づてに聞いて、割とすぐに永松さんに「会いたいです!」って電話したんです。自分もデザインをする身として思うんですけど、あの形ってレコードプレーヤーとして常識外なんですよ。バランスを崩してまとめてる感じっていうか。AP-01は縦方向がすごく短い、タイトですよね。それとなんと言ってもあの見えている軸。最初は構造を知らなかったので、正直「なんで?」って思ったんですよ。後からメカ的な部分について聞いて「なるほどね」と納得感があった。
自分は機能が形に出るものが好きなんですよ。だからAP-0のスピンドルが長くて抜けてる理由が分かった時に「なるほど、理にかなってるな」って納得した。その抜け感と左側の電源部のかたまり感のバランス、それから回転数の切替えスイッチとそれぞれについてる調速スイッチ。このバランスがもうとにかくかっこいい。「オールドスタイルを踏襲しない新しいレコードプレーヤーが出てきたな」ってすごく嬉しかったですね。
永松:ありがとうございます。中が抜けた構造になった時のことはよく覚えていて、ここ、当初は抜けていなくて箱だったんですよ。で、当時のデザイナーが設計者に「この中には何も無いですよね?じゃあ、この壁は全部取っ払ってもいいですか?」って提案したのがきっかけです。
北澤:確かにあれを覆っちゃうとデザイン的に重くなっちゃいますもんね。そういう意味でも、必然的にああいう形になったんでしょうね。
永松:そうですね。プラッターもアルミの削り出しなんですけど、重厚なターンテーブルに比べると軽いんですよね。「もっと重くしたら?」とは時々言われますが、自分としてはこれぐらいで十分という感覚は持って設計してます。
北澤:そういった設計者の意図がちゃんと反映されてるのもいいと思いますね。設計意図があって、実際に作れることはすごいです。
これから他の二社とも対談されると思うんですけど、この4社ってみなさんそういうアイデアを持ってるし、最後まで形にするバイタリティも持ってる。4人が4人、それぞれ思いがあって物作りをしている、そういう集まりっていうのがまた面白い。
永松:4社とも開発した当人が前に立って話してるので、そこはやっぱり魅力ですよね。
北澤:3人ともお話も上手いから「いいなぁ。」って思って見てます。熱量をちゃんと伝えられる。土岐さんなんて曲もかけないで喋り倒したりしちゃうじゃん。(笑)
アイデアを出し合い、参入も歓迎するライバル同士
永松:SAECさんと前園サウンドラボさんの2社は、全く同じ用途の製品を作ってるわけですよね。電源ケーブルなら光城精工さんも。うちはまだアームの単品販売をしていないのでちょっと立ち位置は違いますけど。(笑)SAECさん、前園さん、光城さんは競合する製品がある。
北澤:そう。同じ分野で戦わなきゃいけない。(笑)
永松:ですけど、最終的に到達しようとしてる場所が違うように見えるんですよ。目指している所が違うので、競合のように見えて実は競合じゃない気がするんですよね。
北澤:そうね。でもやっぱり競合ですよ。(笑)前園さんの所はデザイン上手だし、手に取るお客さんが多いって話をお店の人から聞くと「羨ましいな」って思ったりもします。ただ、例えばOTOTENの打ち上げとかでみんなで飲んでると、平気でアイデア出し合ったりしちゃうでしょ。(笑)あれ、やっぱりすごいなって思うよね。
佐竹:しかも、そのやりとりを1回や2回ではなく10年もやってるわけですもんね。
北澤:そうそう。(笑)それを最初に言ってくれたのは光城精工の土岐さんなんだよね。例えば仮想アースとかね、「うちもそういう製品やりたい」って思うじゃないですか。土岐さんはそれを決して否定しないで「やって欲しい!うち1社でやるよりも、その方が市場が盛り上がるから!」って言うんですよね。ああいう言葉をサッと言ってくれるのは懐が深いし、助けられますよね。本来ならなかなか難しいんですよ。やっぱり他社でライバルだから。僕も、例えば永松さんがアーム単体で出してきたらもちろん脅威になる。けど、楽しみでもあるし、そういう関係でいたいなと思います。僕、AP-01の音を聴いた時に「アームってまだまだいけるんだ」って思ったんですよね。「まだまだ可能性があるんだな」って。それがうちのWE-709を作るパワー、原動力になったのは事実で。永松さんに言ったかどうか忘れたけど、小原先生のご自宅で聴いた時にびっくりしました。最初にデザインでびっくりして、次にコンセプトにびっくりして、最後に音にも「すげえ!」って。だから、そういう感動を与えてくれた物です。
多様な製品群を貫く一貫性
佐竹:では続いて永松さん、お願いします。
永松:SAECさんの製品は、私からすると一貫してるように見えています。これ多分、ユーザーのみなさんもそう感じているんじゃないかと思うんです。例えば、ものすごい低音重視の製品がある一方ですごく繊細な鳴り方に寄せた製品がある。SAECさんの製品はそうではなくて、ピュアな音作り。ここが一貫しているように感じます。ケーブルも含めて色々な製品を持っているにも関わらず方向性が一貫していて、「これがブランドなんだな」って感じます。
アームもすごく俊敏でスピード感のある、瞬間瞬間を楽しめるようなアーム作りをされていると思っています。材料にしてもアルミを綺麗に使いこなしてるっていうことだと思います。ショートアームでSAECさんの持ち味が一貫して出ているのはそういうことだろうなって…。
北澤:そういうことです。(笑)
永松:だと思ってました。(笑)ロングアームでそこがどうなるか、楽しみでもあり…。
北澤:すごく心配な所でもある。(笑)
永松:全部の機能が入ったお手本のようなアームなんですよね。SAECさんのアームを見ればインサイドフォースの説明もできるし、ラテラルバランスも入ってますよね?アームにとって必要なものは全部SAECさんのアームに備わっている。奇を衒わない王道のアームだと思うんです。それでいてピュアな音に持っていく。なので、由紀精密はSAECさんと同じアームの方向は目指さない方がいいと思ってます。ただ、うちはアルミではなく、ステンレスで設計をしているので同じ方向には行きようがないとも思っています。
振り切りから生まれたブランド性
北澤:「一貫してる」って言ってもらえるのはすごく嬉しいです。でも、引き継いだ頃はすごく迷ってたんですよ。「やっぱりいろんな音を出した方がいいんじゃないか?」って思った時期も正直ありました。ケーブルにしても、昔はね、お客様にお電話で「どんな音ですか?」って聞かれても、説明に困ったこともあったんですよ。今のPC-Triple Cと出会う前だったんで。今は振り切ってラインナップも増えたので、「グレードに応じて音数が増えていく」とか、「ステージ感がよりリアルになる」ってわかりやすく説明が出来るようになった。振り切ってよかったと思ってます。いろんな音を作ろうと思って苦労した時期もあったんですけど、今は「これでいいんだ」って迷いはなくなりました。そういう意味ではアームもケーブルも同じように考えて作ってるので「一貫してる」って言ってもらえるとすごく嬉しいですね。
永松:うちはAP-01のデモンストレーションではSAECさんのケーブルを使ってるんですよ。これには意味があって、AP-01の音を正確にアンプに伝えることを考えた時に、やっぱりケーブルも音色をデザインする要素の一つになりますよね。でも、SAECさんのケーブルは何の色もつけずに伝えてくれる。少なくとも自分が聴いたケーブルの中ではこういうケーブルは他にないんですよ。
北澤:やっぱりケーブルは裏方だから、本来のプレーヤーの音やアンプの音をそのまま出して欲しいって思います。素材の純度を高めてスピードを上げられたら、それまで出てこなかった情報がどんどん出てきて、奥行きとかステージ感、雰囲気…そういうものが自然と出てくるっていうのかな。ケーブルもアームも将来的にさらに素材や技術が向上していけば、最終的にはピュアな音になると思うんです。まだまだそこまでは行かないですけど、そうなって行くんじゃないかと思います。
永松:とあるカッティングスタジオがあって、そこの機材を繋いでいる電源ケーブルはSAECさんの製品を多用していたんです。すごくこだわりを持ってる方がやられてるスタジオなんですけど、特に大事な器機にSAECさんのケーブルを選んでましたね。
ターンテーブルメーカーとしても、そういうケーブルを使っていただきたい気持ちはありますね。
オフレコ…
北澤:これ、オフレコでいいんですけど、「ターンテーブル周り以外はやらない」ってよくイベントで言ってるじゃないですか。それはしばらくはそのつもり?
永松:そうですね。今はとにかく次のターンテーブルを出したいです。
北澤:何かAP-01に不満ややり残しがあって次の物を作りたいんですか?
永松:いえ、そういうことではなくて、AP-01は私たちが持ちうる、考えうる全てを注ぎ込んでいるのでAP-0シリーズとして、フラグシップとしてさらに上を目指します。次のターンテーブルは別のラインナップとして考えています。
北澤:なるほど!楽しみだな。それ、他社のアームも乗ります?
永松:もちろん乗るようにします。
北澤:それは楽しみ。ぜひ、コラボしたいですね。
今回は6月に控えたOTOTENに向け、サエクコマースの北澤社長と由紀精密の永松の対談の模様をお送りしました。これまであまり語られることのなかった話が聞けたらと始めた対談でしたが、私も驚くような話がたくさん飛び出てきて、ついつい長い記事となってしまいました。
OTOTENにこれから参加される方、既に参加された方、OTOTENとは関係なくこの記事に辿り着いてくださった方。みなさんの中でこの2社の輪郭を少しでもとらえて頂けたとしたら幸いです。
今後もこの4社、サエクコマース・光城精工・前園サウンドラボ・由紀精密での活動は続きます。今後とも、宜しくお願い致します。
お読みいただき、ありがとうございました。